信秀の敗走ルートを歩いてみました

ツアーのご報告
岐阜駅前の「黄金の」信長像の後ろ姿

 鳴海中日文化センターの講座「父信秀が負け、信長が勝った岐阜の痕跡を歩く」として25年6月7日、井ノ口(岐阜市)を歩いてきました。信秀が天文十三年(一五四四)に美濃へ攻め入ったことは事実ですが、自らの領土野心で攻め入ったという昔の考えはもはや誰も支持しません。これは「美濃国守護代の斎藤道三により、当時守護の座を(叔父の頼芸と)争っていた土岐頼充(母が朝倉氏)が国を追われるという事件が起こった。土岐頼充は姻戚関係のある越前朝倉氏の許へ逃げ、朝倉氏は信秀(というより斯波氏)にも出兵を依頼した。信秀は朝倉氏と示し合わせて美濃国に軍勢を出したが、大敗して兵を退いた。」という話(状況はかぎや散人氏による・以下カッコ部分も)です。

 JR西岐阜駅の北にある立政寺は浄土宗西山禅林寺派で、美濃など東海地方の中世浄土宗の一大中心地として栄えた寺ですが、この寺へ織田寛近(六十歳代ヵ・小口城主)が禁制を出しているので、この戦いの時の大将は寛近であったとされています。信秀はあくまで軍事的指揮官として、傭兵部隊(国中憑ミ勢)を引き連れたのでしょう。

織田塚を見る皆さん

 「尾張勢は稲葉山麓の村々へ押寄せて焼き払い、城下町の入り口まで攻め寄せたが、既に夕方午後四時頃になったので、攻撃を切り上げて軍勢を引揚げさせ始めて、諸隊の半分ほどが撤兵した。そこへ、突然斎藤道三が井ノ口城から出撃して南の尾張勢に向ってどっと攻撃してきた」「必死に持ちこたえようとしたが、引き揚げ途中だったため、部隊の多くが備えを崩してしまい、守りきることができなかった。信秀の弟・織田余次郎を始めとして織田因幡守・織田主水正・毛利十郎・毛利藤九郎、信長の家老の一人である青山与三右衛門尉、熱田神宮宮司の千秋紀伊守など、味方の主だった侍たち五千ばかりが討死するという大敗を喫した。」

 という話で、今回は稲葉山城の町口からこの時の戦死者を葬った「織田塚」のある場所まで歩いてみたわけです。そのルートはおそらく江戸時代になって将軍に献上する鮎ずしを搬送したとされる御鮨街道(岐阜街道あるいは尾張街道とも呼ばれ、名古屋に続く道が今も残る)でしょう。戦いは橿森神社の南あたりが激戦地だったようで、道三が創始した楽市場「美園市場」の最南部にあたり、不意をつかれた信秀らがこのあたりの建物を使って防いだということのようです。

御鮨街道の看板はあちこちに建っています

 ここからさらに南方へ逃げた兵は、境川で溺れたわけですが、その数2000~3000人というのは長井秀元が水野十郎左衛門(これは信元とされます)に送った文書にある数字ですから、まあ一桁盛って書いていてもおかしくありません。実際にはせいぜい500人というところでしょう。これが『信長公記』天理本では5000人となりますから、本当に『信長公記』の数字は当てになりませんね。

 さて、その『信長公記』天理本には、信長が最初に美濃(新加納口)を攻めたのは永禄七年(一六六四)と明記されています。父の敗退から20年後のこと。陽明本には年号がないのですが天理本には書いてあります。それに従うと、この年二月に竹中半兵衛重治が謀反を起こして井ノ口城を占拠したため、信長は重治に対して井ノ口城を譲り渡すように交渉したが決裂。そこで四月に境川を越えて兵を出したようですが、新加納という村の南あたりはまだ境川の河原ですから足場が悪く、結局撤退したということのようです。

岐阜城下にあった竹中屋敷あととされる場所。ここの三光稲荷社は竹中家の屋敷神ヵ

天理本にはこの話の年が明記されているのに、陽明本にないのは、その後、竹中半兵衛重治が信長方(秀吉与力)として活躍し、しかもその子の重門が家康の幕府旗本となったため、江戸初期には不都合なこととして消されたのでしょう。天理本にあって、陽明本にない話はたくさんありますが、その一つです。つまりは天理本が古態を留めていることの証明であり、天理本は検討に値する史料であるといえるわけです。

というような話をしながらの歩きの最後は、希望者と岐阜駅北の廃墟化した繊維問屋アーケードを見学。まだ産業遺産として残っているこういう昭和の歴史も、まもなくの取り壊しで消えていくことになります。信長の話は想像しながらになりますが、こちらは現物があるので、説得力がある。皆さん、大変喜んでいただけました。

これは今回の写真ではなく3ヶ月ほど前に撮ったもの
高層ビルと廃墟ビルが建つ岐阜駅前

さて、このあと7,8,9月は暑くて外を歩けませんので、座学で天理本と陽明本を読み比べることにします。秋はまたあちこち歩きますので、ぜひご参加ください。鳴海中日文化センターは桶狭間にも近いの名鉄鳴海駅前ビルです。名古屋駅からは電車でわずか20分ほどの場所です(鳴海城へも徒歩五分でいけますよ)。

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