2020年1月9日

今年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』は明智光秀のお話。光秀は私の研究範囲の人ではないので詳しくはないのですが、やはり謎が多く、若い頃どこでどうしていたのか、出身はどこで、どういう一族の出なのか、など、諸説が飛び交っており、はっきりしたことは確定してはいないようです。しかし今回はドラマになるわけで、どのような設定で描かれるのか、気になるところ。歴史好きはストーリーだけじゃなく、歴史の描かれ方を云々言えますので、それが2度美味しく楽しめるところですね。


ドラマでもおそらく光秀は土岐一族として描かれると思います。岐阜県東濃地区に土岐市がありますが、その近辺、土岐・瑞浪・恵那といったあたりを拠点としていた源氏の一族が「美濃源氏土岐氏」です。清和天皇から続く源氏のうち、平安時代末期に美濃に勢力を広げた源氏の一族で、1100年代の末に土岐郡の地頭となって、初めて土岐を名乗りました。それが土岐光衡です。この人は源頼朝の御家人で土岐氏の家紋である桔梗紋(明智光秀もご承知のように桔梗紋です)を初めて使ったとも言われています。
このあと三代ほど下って1333年に足利尊氏の建武の新政に助力し、初代美濃守護となったのが土岐頼貞で、続く二代守護が頼遠ですが、この人は有名な歌舞伎者で、不敬をはたらいて処刑され、守護は三代頼康に移ります。この土岐頼康、1358年には幕府評定衆の上位に位置し、美濃守護を46年間、さらに尾張の守護にもなり37年間、そして伊勢の守護も16年間つとめて、美濃(岐阜県)、尾張(愛知県西部)、伊勢(三重県北部)という東海全域を支配しました。信長が登場する200年ほど前に、信長と同じ勢力を誇ったのが土岐氏だったのです。
美濃守護土岐氏はその後も続き、信長の父・信秀の時代になって、織田家とも関係が出てきます。美濃では九代守護の土岐政房の時に跡目争いが起き、これに力をつけてきた斎藤道三ら家臣団が加わって混乱します。この騒動に尾張守護の織田氏や越前の朝倉氏も介入し、騒乱が拡大しました。政房の嫡男頼武が十代守護に着くも、次男頼芸や道三によって朝倉氏の元へと追われ、十一代守護には頼芸が着くことに。しかし今度は道三により下剋上されて頼芸は美濃を追われ、信秀の元へ逃げ込んで、信秀の力を借りて美濃へ返り咲きます。しかし信秀が死んで織田が道三と手を結ぶと、美濃を追われ、ついに土岐氏の美濃守護は220年ほどで終焉を迎えます。大河ドラマではこの斎藤道三と土岐頼芸の争いの中に居たのが若き明智光秀、と描かれるはずです。学説的にはまだ確定してはいませんが、光秀が土岐氏の出身だとすれば、それは十分考えられることでしょう。

このような土岐氏を研究する民間の集まりに「美濃源氏フォーラム」があります。この研究会はすでに30年の歴史があり、その30年めについに念願の「光秀が大河ドラマに」なるということで、大いに盛り上がっています。その盛り上がりの中で、これまでの研究をまとめ、発表したのが現在、岐阜県博物館マイミュージアムギャラリーで開催されている「美濃源氏土岐一族と明智光秀」展です。土岐氏の歴史、地元に残るその足跡、明智光秀に関わる諸説などが豊富な資料で展示されています。ここでは光秀は土岐明智氏の出とされますが、土岐明智氏に関する研究はまだまだこれからのよう。しかし、天正10年の家康饗応の際に、光秀が土岐氏であり、土岐定政と従兄弟であると自ら語った資料が発見されたとのこと。そのあたりはぜひ会場でお確かめください。



信長に関連する話では、信長による岐阜の命名に関する異論でしょう。木曽川はもともとは岐蘇川で、禅宗の僧の間では、信長以前に井ノ口界隈は岐陽(土岐氏の都)、岐山、岐阜と言われており、信長に沢彦宗恩あるいは柏堂景森といった禅僧がその呼び方を進言して、土岐氏をリスペクトする意味で岐阜になったのでは、というふうに解説されています。また帰蝶(濃姫)がもともとは九代土岐政房の息子の妻で、夫が道三に殺されてから、信長に嫁す事になったという話も紹介されています。
このように、光秀の出身である土岐氏のことがトータルにわかり、大河ドラマを見る上で、特に前半を見る上ではとてもためになる催しだと思います。3月8日まで開催されていますので、ぜひおでかけください。この展示を見るだけなら無料です(岐阜県博物館内では企画展「岐阜の城館探訪―城が語る郷土の歴史―」を開催中で、入場料600円)。岐阜県博物館へは岐阜駅からバス35分と徒歩20分、クルマの場合は東海北陸自動車道関ICから5分ほどで駐車場に着けます。

岐阜県博物館での美濃源氏に関する講演会予定
1月 26日(日)PM 1:30〜PM 3:00
博物館学芸講座「平安時代後期の京都と美濃源氏」
講師:長村祥知・京都文化博物館 学芸員
2月 16日(日)PM 1:30〜PM 4:15
講演会 「江戸幕府老中沼田藩主土岐頼稔の系譜を辿る」「足利将軍追放後の織田信長」
講師:土岐昭光(土岐家中興の祖定政二十代孫) / 谷口 研語・元 法政大学 兼任講師
3月 1日(日)PM 1:30〜PM 3:00
講演会「入門 美濃源氏土岐一族」
講師:井澤康樹(美濃源氏フォーラム理事長)
3月 7日(土)PM 1:30〜PM 3:00
講演会「沼田藩三万五千石、大名始祖となった土岐明智定政―明智光秀と土岐定政は従兄弟だった!?―」
講師:小野瀨和男(沼田市文化財調査委員)