2024年4月18日

サクラが仕込まれたとの指摘が出た市民説明会と同時期の中村区での説明会開会前の様子(2019年11月28日)。開会後の撮影は禁止された
5年前、2019年の「名古屋城天守木造復元に関する市民説明会」に3名の賛成派サクラが入れられた疑惑が浮上しました。これは2024年3月15日、名古屋市議会総務環境委員会(録画 https://nagoya.gijiroku.com/g08_Video2_View_s.asp?kaigi=0&NitteiID=1559&SrchID=2035、28分ごろから)で、河村市長の減税日本に所属する中川区選出の中川あつし議員が明かしました。市長特別秘書の田中克和氏から話があり中川議員が賛成派質問者3名を集めて、顔写真と名前を田中氏に渡し、司会者が当てるようにさせたというものです。現在も市長特別秘書を続ける田中氏が市民説明会にヤラセを仕込んでいたとして議会で追及されました。
この説明会の発言はすべて名古屋市が文章に起こし、ネット上に上がっています(https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/save/tenshu_information/uploads/01c224ef270d0c83369259577e82a845.pdf)。その中でこの件に該当しそうな発言を取り出してみました。
司会:はい、ありがとうございます。では、次の方、どなたかいらっしゃいますか。真ん中の列の方、よろしくお願いします。
市民 B:こんばんは、(個人名)と申します。名古屋市は観光資源というか非常に乏しいと思いますね。こちらに見える方だと若い方になるのでしょうか、僕も。名古屋市の名古屋城天守閣木造復元は大賛成ですね。というのも、観光資源が無いところで象徴ともいえる天守閣木造復元は、絶対海外からも目玉商品ではないかなと思います。多少お金がかかっても、減税日本も市長並びに800万円の給料でやっているので、その分、減税して税収が上がったという事で、その浮いた分を木造復元に費やしていただいても良いのではないかと思いますね。あとは、反対と言いますか、エレベーターの方は、やっぱり1600 年代にコンクリート、鉄筋性のね、こういうのはあり得ないものですので、先程市長が言われたように、それを造ってしまうと耐震的な問題が起こってくると思うんですよね。私の住んでいる近くの笠寺観音という所があるんですけれども、笠寺観音も修繕工事を行っておりまして、次の1300 年後を見据えた活動というか修繕工事をしていますので、いずれにしても3.11の東北大震災の件もありましたし、ここらで耐震を強化して木造の復元を強化というか、やってもらえると、名古屋人として非常に誇りあるまちづくりができるのではないかと思っております。色んな問題はあるかもしれませんけれども、頑張っていただきたいと思っております。ありがとうございます。
この発言がヤラセだったとしたらちょっと興ざめしますね。私はこの中川区の説明会には出ていませんが中村区の説明会には出席しました。その時の模様はこの連載でも書いております(https://plus.chunichi.co.jp/blog/mizuno/article/233/9175/)。
この説明会は
①例年のような年度末ではないイレギュラーな時期に行われた
②数少ない参加者は、妙に賛否がはっきりしていた
③現副市長で、再建推進派の松雄氏が市側のトップだった
④石垣保護優先として対立してきた石垣部会と市側がここで和解した
⑤この年から会の撮影・録画が禁止された
という、記憶に残るものでした。中川区でサクラが入れられていたなら、この中村区でも、と思えてしまいます。またこれ以降に行われた説明会や、さらには差別発言で問題になった市民討論会でももしや、と。紛糾する名古屋城問題ですが、サクラはあまりにも酷い話ではないでしょうか。

入場料収入で賄うという市の収支計画では返済が厳しいとして、もっと寄付集めをしようと市民団体「名古屋城天守閣を木造で復元し旧町名の復活を目指す会」が2017年5月14日に行った決起集会
■2017年度前半の動き
さて、では前回に続き、2017年4月以降からこの説明会のあたりまでの流れをできるだけ簡潔にご説明していきます。このころから天守木造復元は構造的な問題、経済的な問題よりも石垣保護、バリアフリーが課題の中心となっていきます。
2017年4月に河村市長は再選。このとき『木造化に取り組む。これは業務命令。全責任は市長が負う』と一筆書いたことを明かしています。5月9日には市は竹中工務店と「基本協定」「基本設計契約書」を締結(基本協定書 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/170509-1.pdf、基本設計その他業務委託契約書 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/170509-2.pdf)。しかし特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議石垣部会(以下石垣部会)は、石垣を動かす計画を批判し、調査には10年以上の時間がかかる、としました。
7月5日に市は文化庁に石垣現状変更許可申請を提出しようとしましたが、「保全名目でなければ許可できない」と受領されず(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/170704.pdf)。本質的な価値ある石垣の保護は大丈夫なのか?という課題が加わり、私はこの時点で、もう木造復元は無理という考えに変わっていました。ただ「石垣に価値がある」と理解されにくく、学者が再建の邪魔をしているという人も。
8月26日に市民団体「名古屋城を『戦後復興のシンボルに』実行委員会」が現行天守は30億円で耐震改修可能と発表。

名古屋市が当初提案したエレベータに替わるチェアリフト
■2017年度後半の動き
8月29日に文化庁へいよいよ「現状変更許可申請書」が提出されました(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/170829.pdf)。この頃、石垣部会と、木造再建を検討する天守閣部会の考えがすれ違い、10月13日に行われた全体整備検討会議が紛糾しています。(配布資料 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/171013-2.pdf、配布されなかった資料はhttp://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/171013-3.pdf)
市は11月16日の天守閣部会で「エレベーターは設置しない。5階までのチェアリフトを設置」と提案(配布資料 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/171116-1.pdf)。ここから、現在まで続くエレベーター問題が始まりました。河村市長は11月20日に「エレベーターはつけない方がいい、何か新技術を開発しよう」と述べていますが、翌21日に、愛知障害フォーラムは公開質問状(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/171121.pdf)を提出しました。
12月7日の市議会で石垣詳細調査の補正予算3億4000万円が可決。年が明けて2018年1月16日から「木造復元市民向け説明会」が市内5会場で開催されましたが、配布資料もなく、ケーソンの上に建てる、エレベーターはつけないなど肝心な話は何も説明されず。28日には300人ほどを集めて「名古屋城天守閣木造復元シンポジウム」があり、ここでやっと資料(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180128.pdf)が配布されました。
1月30日に石垣部会が再開され、保存活用計画案(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180130.pdf)を認めず、市との対立がはっきりしました。2月9日、市議会で天守の整備34億9500万円が計上されました。「実施設計8億6000万円、設計監理等支援業務委託4350万円、史跡内仮設工事9300万円」が市長査定で復活しており、木材の製材22億1150万円も入っていました。なお議会では、「1000万円を超える個人寄付が5件あったこと、エレベーターなどが付くなら寄附を返してほしいという問い合わせがあったこと」が明かされています。
市は3月8日の市議会で「エレベーターについて年度内は難しい。遅くとも5月中には」とし、14日に「天守にスプリンクラーを設置予定。スポットクーラーや送風機などは必要だと考えるが、詳細は検討する」としました。竹中工務店は18年2月末には基本設計を出さないといけませんが、エレベーターが決まらないと基本設計ができない状態です。
しかし3月16日には名古屋城木造天守閣予算115.1億円が共産以外の賛成で可決。議会は河村名古屋市長に対する反発は強いものの、事業そのものには賛成派が多いためこうなります。http://www.city.nagoya.jp/shisei/category/68-6-2-15-1-2-2-0-0-0.html

18年3月30日付け基本設計にあるはね出し架構の図
■2018年度前半の動き
4月10日に愛知県の福祉有識者委員会「人にやさしい街づくり推進委員会」がエレベーター設置要望書を提出。24日には「バリアフリー検討会議」が開催されました。そんな中、5月6日には危険であるとして現在のコンクリート天守が入場禁止に。9日の天守閣部会では、市がエレベーターを設置しない方針を固めたという報告がありました。
5月11日、市は「特別史跡名古屋城跡保存活用計画」(http://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000105368.html)を策定したと発表。これに先立つパブリックコメント募集では木造復元に否定的な意見140件、肯定的な意見9件でした。14日には大村愛知県知事からエレベーター不設置方針に再考を求められています。5月21日になると「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」100名以上が名古屋市役所前で抗議しましたが、市長は30日に、エレベーターを設置しないと正式表明。
5月16日には読売新聞等により、文化庁の有識者会議が2017年12月26日と18年3月26日に行われていたことがわかりました。17年12月26日開催された文化庁「史跡等における歴史的建造物の復元の取扱いに関する専門委員会」では
①戦後都市文化の象徴である現行天守解体にはなお議論を尽くす必要がある。史資料の豊富さのみで、木造とする考えが正当化できるかどうか検討を要する。
②戦前における城郭建築についての研究と耐火構造の必要性というような中で、現行天守が建設されたが、前者についての追跡が不十分ではないか。
③建築基準法の変遷調査が必要。34年改正が国宝保存法に指定されており、再建を適用除外としていると解釈できるか検討が必要。
④石垣の調査を行い、どのように石垣を保全していくのかを検討しなければならない。
とされました。http://nagoya.ombudsman.jp/castle/180709.pdf
こうしたことから6月13日には市長自ら文化庁を訪れ、非公開で意見交換しました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190531-1-1.pdf)マスコミ報道では「河村氏はバリアフリー策を説明したが、所管ではないとして特段の意見を述べなかった」とされています。19日には「エレベーター設置を実現する実行委員会」が市役所を取り囲んでアピール。7月2日には大村知事が「基本的人権にかかわるものだ」と再び意見しました。
それ以前、6月22日の市議会本会議で、浅井議員(自民)は、「5月29日に自ら文化庁へ行ってきた。文化庁から言われた石垣調査をしっかりやれということを市は市議会に示していない」としました。そんな中でも7月4日に木材製材費94.5億円契約が、自民(2名を除く)・民主・公明・減税の賛成で可決されました。
7月13日の石垣部会では「石垣の保全と安全対策が180度違う」「復元天守の基礎構造は了承も議論もしていない」と市に反論。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180713.pdf)19日には天守閣部会が開催され、江戸時代のように石垣の上には天守を乗せず、一部の石垣の取り外しなどをして「はね出し架構」という天守を乗せる台を作ること、階段の最上部に煙の閉鎖扉をつけることなどが説明されました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180719.pdf)スプリンクラーをつけ、3階から4階への新たな階段を加え、「本質的価値」を持つ石垣を取り外してはね出し架構などを新設しようというわけです。これが「史実に忠実」な城なのでしょうか。
7月24日に名古屋市は市民向けに「特別史跡名古屋城跡バリアフリー説明会」を開催。新技術を提案した4社が二足昇降ロボット、駕籠、アシストスーツ、階段昇降機といった現在の技術を説明しました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180724.pdf)河村市長は7月26日に再度文化庁を訪問し、文化庁からは再度「石垣部会」の理解を得て欲しいと言われたと言う報道があるなか、7月30日に市長は7月中に復元基本計画を文化庁に出すことを断念したと発表。その後、9月10日に「石垣部会」の構成員と市幹部が非公表で会合を持つも調整は失敗(日本経済新聞による)。市は10月の文化審議会を目標としていますが、文化庁は石垣部会の合意を申請受付の条件としているため書類すら提出できていません。
9月21日には「名古屋城天守の有形文化財登録を求める市民の会」が基本設計8億4693万6000円を市がすでに竹中工務店に支払ったのは違法だ、として住民監査請求を行いました。

2019年1月22日瑞穂文化小劇場での市民向け説明会

昇降装置を設置することは努力義務とする説明パネル
■2018年度後半の動き
10月1日の会見で、河村市長は「2018年10月の文化審議会に間に合わせるために、文化財石垣保存技術協議会と相談中」と述べました。2日には「愛知県障害者施策審議会」が、エレベーターの再考を求める要望書を提出しました。5日に正式な部会ではない『石垣部会ワーキング』が非公開で開催され、終了後の記者会見で、石垣部会メンバーは「天守台石垣については話し合わなかった」としています。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/181003.pdf)結局15日に市長は10月の文化庁文化審議会の了承を断念するとし、「完成期限は死守する」としています。しかし工期は最低7か月遅れるため、30日の市議会でも市と竹中工務店は今後の工程案を示せませんでした。
11月2日に天守閣部会と石垣部会が開催されました。石垣部会の千田嘉博奈良大学教授は「遺構を破壊する「はね出し架構」は断じて認めない。文化庁も認めないだろう。何回も部会・ワーキンググループで指摘し、文化庁でも指摘されている。市は木造天守閣を建てるつもりはないのか」としました。竹中工務店は木造天守を支えるには「はね出し架構」は必要としており、まったく話が噛み合っていません。
11月15日にバリアフリー説明会(第2回)が非公開で開催されました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/181115.pdf)その中で、「木造天守閣の昇降にかかる公募の検討状況」が公開されています。また「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」は12月17日に「基本設計代金8億4693万6000円を返還せよ、実施設計を解除せよ、名古屋城天守閣整備事業を停止せよ」という住民訴訟を提訴しました。
年の瀬12月28日にも、二回目のバリアフリー検討会議が開催されました。( http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/181228.pdf)終了後の西野所長会見では、「2022年12月竣工までに対策を十分に取れるよう来年度早々には(新技術の)募集条件を固めたい」としました。
2019年1月15日の市長会見で、「名古屋城石垣については、文石協(文化財石垣保存技術協議会)によるレポートは最後のまとめに入った」としました。レポートは、まず石垣部会、文化庁に出され、その後マスコミ・市民に報告することになるとしました。
1月17日から5回、また市民説明会が開催されました。(配付資料 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190117.pdf 17日に熱田区役所講堂で開催された第一回の説明会では出席が250席中38名。19日中区役所講堂の来場者は約120人。市長は「エレベーター設置について、福祉の方が『住民投票はやってくれるな』と言っている」としました。22日の名古屋市瑞穂文化小劇場は300席で参加者45名。23日名古屋市緑文化小劇場は350席で40名、25日は名古屋市東文化小劇場300席で40名と、いずれも参加者は少なく、重複して参加している人もいました。説明会の締めとして1月27日に鯱城ホールでシンポジウムが開かれ、竹中工務店は「2022年12月完成を遵守できるようにがんばっていきたい」としています。
1月30日に第15回天守閣部会が開催されました。これに先立つ1月11日に石垣部会ワーキンググループの会合が非公開でありました。資料は54ページにも及んだとされます。このあと2月1日に市長は文化庁を訪問。そして2月4日の会見で「現在の天守を先に解体申請する」としました。「2019年5月の文化審議会には、現天守閣解体の申請を行う。解体については復元検討委員会はいらない」と述べました。「上の天守閣がなくなれば、穴蔵石垣の調査がしやすくなるに決まっている」とし、復元では許可が出ないので、調査のためとして現行天守を壊してとにかく前に進めようということのようです。http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190204-1.pdf
これには私も驚きました。木造復元の目処も立っていない中でもし天守が壊されたら、今後、数十年は天守が無い状態で、もしかしたらそのまま建たないかもしれない。それは名古屋市にとって大きな損失ではないか、と危惧したのでした。しかし2月12日には平成31年度予算として解体関連予算約9.6億円がいきなり計上されました。
2月14日の天守閣部会では、2月1日に文化庁が『石垣にダメージを与えない工法をご提案いただければ検討する』と述べたとされ、部会は先行解体に異議を出しませんでした。そして市は、26日に「現天守閣解体にかかる現状変更許可申請に関する留意事項について」を発表しました。http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190226-1.pdf
文化庁より 現状変更許可申請提出にあたっての留意事項
1 現天守を解体する理由(現天守解体の必要性・妥当性)
*耐震診断結果の詳細な説明、耐震補強では十分でない理由、現天守に係る沿革と内容に関する情報の整理、現天守の記憶保存等に関する措置
2 現天守解体の具体的な工事内容(工事用仮設の具体的な内容を含む。)
3 2に関連して、現天守の解体・除去工事が文化財である石垣等に影響を与えない工法であり、その保存が確実に図られること(石垣部会の意見を付すこと)
4 石垣等保全の具体的方針(石垣部会の意見を付すこと)
5 石垣等詳細調査の具体的な手順・方法等(石垣調査計画・石垣部会の意見を付すこと)
これをうけて3月7市議会経済水道委員会での活発な質疑で出た問題点は以下です。
・石垣部会は名古屋市の計画を認めていない
・石垣の具体的な保全方針はまだできていない
・石垣部会は「穴蔵石垣を調査するのに、現天守閣を解体する必要は無い」としている
・2019年3月に取り壊し予算を議会が認めても、5月臨時議会で取り壊し予算を認めても、完成までの工期に変化はない
・2019年5月に取り壊しの現状変更許可が出たとしても、工期は7か月短縮することになり、竹中工務店と具体的調整はできていない(22年の完成には間に合わない)
・文化庁は「耐震補強では十分でない理由」を聞いているが、名古屋市は答えを持っていない。 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190226-1.pdf
・現天守はすでに入場禁止にしており、「非常に危険な状態」で「できるだけ速やかに現天守閣を解体したい」という理由を市は説明していない。
・石垣部会のコンサルは「復元と解体を分割申請する提案はしていない。名古屋市がアイディアを出し同意を求めたが同意していない」 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190306.pdf
・2019年5月の文化庁現状変更許可が下りなければ、解体契約は出来ない
しかしながらいつものように3月15日には解体準備予算9億6100万円等は可決。反対は共産のみ。しかし報道によれば、伊神邦彦、丹羽ひろし、浅井正仁という3人の自民市議が議決時に退席したとのこと。
3月25日に石垣部会が開催され、「文化財の現状変更をする際に当然行うべき調査・検討ならびに保全方法が十分行われておらず、検討もされていないことが明らかになったので、石垣部会としては解体は認められない」としました。千田嘉博奈良大学教授は「文化庁は『(解体のための)橋を架けるところを全て調査せよ』と言っている。現状変更許可を取るには1年はかかる。文化庁としても、『形式が整っていない』として突っ返すだろう。江戸時代の石垣がまた新たに見つかっている」としました。
26日には天守閣部会が開催されました。前述の文化庁の留意事項1、2、3が議題としてあげられましたが、4.と5.については議題にあげられませんでした。麓和善名古屋工業大学大学院教授は「4、5をクリアしないと現状変更できない。工学的検討を石垣部会で出来るのか」としています。
29日に全体整備検討会議が開催されました。欠席した赤羽一郎委員からは「特別史跡名古屋城跡全体整備検討委員会石垣部会のまとめ(試案 http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190329-0.pdf)」が提出され、25日の石垣部会の考えが伝えられました。最後に出席していた文化庁担当者が「名古屋城天守台石垣は歴史的・工学的に検討を」と述べています。

もしこの時、天守が先行して解体されていたら、エレベーター問題が解決していない現在、ここには天守がないわけで、名古屋城観光は成り立っていないかも
■2019年度の市民説明会までの動き
コンクリート天守を先に壊すにしても現在の石垣の保護をしないとできない、という新たな問題が提起される中、2022年12月の完成はほぼ絶望的となっています。4月1日に河村市長は期限どおりにできなければ「みんなまあ切腹と。そのかわり私一人ではしません。関係者全員切腹です」と発言。その後、19日に現天守閣の解体申請を文化庁に提出し、いちおう受理されました。
4月22日にこの4月から着任した松雄俊憲・観光文化交流局長(現副市長)が記者会見で解体申請について「事務的にはやり切ったというふうに思っておりますけれども、それでやっぱり許可がでるというふうに思っておりませんので、市長には私共からお願いして、25日に文化庁に出向いていただく。」としました。
25日、市長は文化庁を訪問し、天守閣先行解体を要請。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190425-2.pdf)同じ25日には天守閣部会が開かれ、木造天守内の照明などが検討されました。そこでは「これは木造天守閣を復元するプロジェクト。石垣研究プロジェクトではない」という意見も出ています。28日には石垣部会が開催され、宮武佐賀大学教授は「仮設構台下のトレンチ調査については、石垣部会としては初めて聞いた」とし「だとしたら(文化庁からの留意事項3に反するので)文化庁にもう一度出し直すことになる」としました。
6月12日には中日新聞が社説で「名古屋城の復元『まず解体』は乱暴だ」と書きました。19日の市議会で浅井市議は復元許可がでるかわからない現段階で解体先行をすると、城が建てられないリスクがあるとして「一度立ち止まるべき」と述べました。24日には「石垣部会は『承服しかねる』としたが、それを文化庁にそのまま提出している。解体先行の現状変更許可を取り下げ、石垣調査を最優先する。これが一番早い建て替えのやり方ではないか。」としました。そして結局6月21日の文化庁文化審議会では、解体申請は議題となりませんでした。
6月28日には当時の安倍晋三首相がG20の夕食会のスピーチで「大阪城にエレベーターをつけたのは大きなミス」と発言し全世界から批判されることに。また7月4日の市議会で、観光文化交流局総務課長が「木造復元事業は、市税を投入しない財政スキームでやっていくため、国庫補助等は入れるのは厳しい」と発言。国からの補助金を得ることはなさそうです。5日には「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」が大村秀章愛知県知事に対し、「愛知県障害者差別解消推進条例に基づく知事による助言・あっせん等の救済申し立て書」を出しました。このあと8日に河村市長が、16日に大村市長が互いを批判しています。
石垣部会の千田嘉博奈良大学教授は7月20日に開催された「第88回名古屋城天守閣を木造復元し、旧町名を復活する有志の会」主催の学習会で講演し、石垣部会はけして木造天守に反対ではないと述べています。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190720.pdf)7月30日には早期に解体許可を出して欲しいと、河村市長や特別秘書、秘書課職員らが文化庁を訪問し、要望しました。8月5日に石垣部会が開催されましたが、文化庁へ提出した現状変更許可申請書も、文化庁からの確認事項も、名古屋市の回答も、石垣部会へは提示されないまま審議を求められ、部会は反発。新たに埋蔵文化財部会を設立する方針も出されたため「よけい混乱する」と批判しました。すると服部英雄名古屋城調査研究センター所長は「名古屋市を助けて欲しい。許されるのなら私は人柱になりたい」と言っています。
28日は天守閣部会。市からは日本建築センターの指導を仰いでいるが建築基準法の除外評定は得られていない、消防法について名古屋市消防局と協議を開始したと報告がありました。市は「文化庁の許可が先で、建築基準法の除外は後」としています。しかしついに8月29日に市長は、木造化について22年末の復元を断念すると発表。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/190829.pdf)また9月14日には昇降に関する新技術公募の開始時期もまだ言えないとしています。とにかく先に壊してしまえばなんとかなるという「乱暴」なプランはひとまず頓挫したようでした。切腹を免れるための「乱暴」な手法でしたが、「尾張名古屋は城がない」という状況にならずホッとしたことを覚えています。
9月18日の市議会本会議で、松雄観光文化交流局長は「文化庁も本来解体と復元は一体として申請されることが望ましいと考えている」と述べました。浅井正仁市議(自民)は「6月議会の時、松雄局長から『観光文化交流局と石垣部会の意見が相違あれば石垣部会の委員はやめていただく』と発言があった」「9月議会中、松雄観光文化交流局長が『ある大物国会議員で頼んであるからうまくいく。名前は市長に聞いてくれ』と言った」としました。20日の議会で佐治名古屋城総合事務所長は「文化庁から、解体の現状変更許可に加えて復元する現状変更許可を追加して一体化する方法もあるから、名古屋市で考えて下さいという見解はいただいた」とし「解体だけ先行は考えていない。様々な手法があると考えているが文化庁と調整できていない。7月30日に文化庁に出張したが、申請の内容について不足している部分があると聞かされた。私どもが受けていた感触と大分違うと感じた」としました。
10月24日にバリアフリー検討会議が開催され、市の担当者は「柱や梁を外すようなシャフト型エレベーターはダメ。しかし、床を取り外して、床の部分だけ上下に移動するような垂直昇降装置であれば『史実に忠実』といえるのではないか。しかし、自由なアイディアを募集するため、現段階で市から『これ』ということは控えたい」としました。しかし「床が動く史実に忠実な城」というのはさすがに無理があるのでは。そして名古屋城木造天守の実物大階段模型「ステップなごや」の一般公開が19年11月2日から始まりました。木造天守の1階から2階への階段を模したもので竹中工務店が随意契約9050万円で制作したものです。
11月4日に石垣部会構成員と市長、観光文化交流局長、名古屋城総合事務所長、名古屋城調査研究センター副所長との懇談会が行われ、市長は「石垣部会には、木造天守復元を一緒に考えていこうと言った。これからは連絡を密にして木造復元も入れてやっていこうとなった。みなさんそうだ、となった」「意思疎通がうまくいかないことがあって申し訳なかったと言い、納得して頂いたと思います」としました。
11月28日の市議会本会議で松雄観光文化交流局長は、「本丸御殿についてはスプリンクラーなどを早急に検討すると述べ、木造天守閣についてもおよそ800個のスプリンクラーを設置する予定」としました。また「文化庁からの指摘事項について、今後情報提供をしながら一つ一つ丁寧に石垣部会の助言を受けながら進めていく」「市長と石垣部会構成員が直接話し合い、お互いの考えを確認出来て大変有意義だったと感じている」「まず石垣カルテを整理し、調査結果の整理分析が必要との意見を頂いた、はね出し工法について、石垣の一部の毀損を前提としている基礎構造は認められないと、当初から指摘しているという意見も頂いた。木造復元について、特に議論は行われなかったが、石垣部会としても全体整備検討会議との関係の中で議論に加わっていくことになるとのご意見もいただいた」としました。4日の懇談会ではかなり深い話があって、石垣部会と市は歩み寄ったようです。
そして11月28日から市内8カ所で名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会が行われました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/191128-1.pdf)第一回として中村文化小劇場にて説明会が開催されましたが録画、写真撮影は不可とされました。会場には、石垣部会の千田嘉博奈良大学教授が個人としてということで来場していましたが、終了後、舞台上で挨拶がありました。説明会終了後、市長と千田氏の共同会見もあり河村市長との和解が演出されたように見えました。(http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/191128-2.pdf)千田教授は記者にはね出し工法について聞かれ、「今は結論を出せない。基礎的な調査に基づいて、石垣がどのような学術的な価値を持っているかを評価することになる。その結果次第で、はね出し工法が成り立つのか。明らかになってくる」としています。
12月2日には、いつもと違う時期に守山区役所で市民説明会があり、そして12月3日に、問題の中川文化小劇場でサクラを仕込んだとの指摘が出た説明会が開催されたのでした。解体先行という奇策が失敗して、22年完成が不可能となり、石垣部会と和解してやり直しとなった中、市民はまだ木造再建を支持していると見えるようにしたかったのでしょう。むろんエレベーター問題は何も解決しておらず、現実には木造復元は一歩も進んでいないのですが。
※4月9日の公開時点から一部修正し、4月18日に再公開しました