名古屋城問題12 名古屋城問題の決定版とも言える本が出ました

名古屋城天守木造再建問題

2024年7月17日

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名古屋城・木造天守復元の落とし穴 毛利和雄 心泉社 2500円+税



著者の毛利さんはもとNHK解説委員の方で、文化財報道の専門家。その視点で書かれたこの本には、名古屋城木造復元事業の経緯とその問題点が整理されています。10年以上というあまりに長い間、ゴタゴタしてきたことゆえ、話は多岐にわたっており、なかなか理解するのは大変ですが、この本をしっかり読み込めば、かなりわかってもらえると思います。現時点で決定版と言える書籍かと。私の連載も長く続いて整理できてませんので、ぜひこちらをご一読ください。

またこの本は二部構成となっており、後半部分では日本各地の城郭の復元・修復事情が解説されており、大洲城や掛川城などの木造復元事情など大変参考になります。建築の法的にはギリギリの事業であったのだなと。名古屋城の場合、現在は建築基準法というよりバリアフリー問題が課題となっていますが、私は今となっては事業の収益性の問題だと思っています。観光収入で建築費を賄おうという事業のために、バリアフリーも対応せざるを得ないわけです。それゆえ、昔のままの復元は無理でしょう。意見を同じくするこの本から第一部の最後の部分を引用させていただきます。

「予算には税金を一切使わず100パーセント市債でまかない、見学客の増加で生み出される収入で償還する」と唱えられていた。それどころか河村市長は、見学客の増加で生み出される黒字分を福祉にまわすとまで言っていた。
 ところが、黒字どころか現状では、木材の購入費をはじめ70億円あまりの予算を使っていまだに先行きを見通せる状況になっていない。それどころか、505億円の予算と今後のメンテナンスも入れると1000億円近い費用がかかると予想される。その上、木造天守では現天守内の博物館機能が失われるので、名古屋市は三の丸地区に博物館を新設する構想を検討しており、その費用もかさむ。それらを入場料収入では賄いきれず、福祉の予算を圧迫することになりかねないと懸念する声すらある。
 残り一年足らずとなった河村市長の任期中に、名古屋城天守木造復元の先行きを見通せることはなさそうだ。河村市長の主導で始まった事業だが、遅れに遅れており、その原因の所在の多くも河村市長にあると思わざるを得ない。」

このように当初の計画では入城収入をあてにして、本来は人が入るところではない天守に観光客を入れようとしたので、耐震・耐火・バリアフリーに対応せざるを得なくなり、完全な復元は無理ということになっているのが現状です。そもそものスタートが間違っていました。であるなら白紙に戻して今のコンクリート天守を耐震補強し、内部を木造で作り変えて、当時の様子で復元してはみてはどうでしょうか。それなら100億円もかからないと思いますが。

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