第162回 豊明市で新たに「歴史民俗資料室」がオープン。古戦場伝説地の現地ガイドとは異なる内容の展示となっていますが、さて…

中日Web「尾張時代の信長をめぐる」過去記事 

2022年5月30日

「桶狭間の戦いに関して」のみが展示された豊明市の歴史民俗資料室の一室

旧暦5月19日、新暦なら6月12日、つまり今から462年前、1560年のちょうど今頃、桶狭間の戦いがありました。毎度ながらこの戦いに関して私は、かぎや散人氏による義元は撤退中だったという新しい解釈、つまりは新説でその謎を解いたとしております。が、なかなかこの説は世に浸透してくれません。まあ歴史の常識がひっくり返るのには、やはり何年も、いや何十年もかかるものなのでしょう。地道にPRを続けていきたいと思っております。

さて、その桶狭間の戦いは、ご承知のように愛知県豊明市、名古屋市緑区の2ヶ所に古戦場と称する場所があります。どちらが本当の古戦場なのか、まさに諸説ありますが、両自治体としては、それぞれこちらで戦いがあったとしています。研究者によっては広域で戦いがあり、どちらでも戦闘が行われたとしていたりしますが(苦笑)、まあそういう事もあったかもしれませんが、主戦場はどちらか一つでしょう。ちなみに、私は当時存在した道の位置から緑区の方だとしています。

さて、今回リニューアルされたのは、豊明市の「歴史民俗資料室」です。下のリンクにある中日新聞掲載の紹介記事に詳しいですが、作られた場所は、豊明団地の中にあって昨年廃校となった唐竹小学校です。その敷地や建物をリニューアルして市共生交流プラザ「カラット」という公共施設ができ、その南館1階の一角にこの資料室があります。

ストリートピアノが置かれたりしてきれいにリフォームされた校舎を入っていくと、もとの教室が3室、展示室やイベントスペースになっており、一番奥に「桶狭間の戦い」の展示がありました。こちら、かなり充実した展示となっています。

小学校の廊下の奥の元教室一室分が桶狭間関連の展示となっている

展示物撮影不可ということなので、文章でご紹介します。入るとすぐあるのが、横1.5mほどの現地エリア地形の立体模型。地名や砦にはピンが打たれていますが(正光寺砦があるのは素晴らしいですが、私が考えている位置とは違いました)、ユニークなのは進路に関しては「ヒモ」で線が引かれていること。絶対的にこれだとせず、いつでも変更可能というのは素晴らしい。研究は時代とともに変わるということを分かっていらっしゃると思いました。

ここに表示された義元の進軍ルートは、沓掛城から山の上をまっすぐ進んで、『信長公記』にあるとおり、桶狭間の山の上を義元本陣としてあります。展示を担当された豊明市生涯学習課の岸田さんに聞くと、市は『豊明市史』に基づいて考えており、本陣は石塚山、あるいは、いわゆる64.9m(展示は64.7mとなっているが明治初期の地図で見る限り64.9mと読める)の山の上だったとしている、とのこと。私としては石塚山は賛成できませんが、64.9mは同意見です。どちらも名古屋市ではなく、豊明市域となります。岸田さんは「そこを信長に襲われて東(沓掛城方面)へ逃げたのだから、討ち取られたところが豊明の古戦場伝説地だったのでは」とのこと。

古戦場伝説地にあるボランティアガイドによる地図では、義元は山の上には居ないことになっている

「あれ、そうすると古戦場伝説地で現地ボランティアガイドの人たちが観光客に話している内容とは違うのでは?」と聞けば、「ボランティアガイドの皆さんが言っているのは一つの説で、市としてはこう考えている」ということでした。ボランティアガイドの説というのは、太田輝夫氏が唱えている独自の説で、「長い隊列で行軍していた義元勢は、先頭を信長勢に攻められたため行進が止まり、ちょうど古戦場伝説地あたりで止まった後方の義元がそこを借本陣としていたところ、急襲された」というもの。本陣は山の上ではなく、古戦場伝説地ということになります。古戦場伝説地にあるボランティア詰め所前には、大きな地図も置かれています。ということはつまり、豊明市の中でも説が分かれているということのよう。何も知らずに来た観光客は混乱するかもしれませんね。

資料室の展示の話に戻しますが、パノラマ図の他に織田・今川両氏の系譜や戦いに至る流れ、力の差、戦いの伝承などが分かりやすく展示されています。『尾州古城志』が石塚山を陣所と考えていたこともわかります。私とは見解が異なる部分もありますが、しっかり作られていると思います。また、沓掛城の近藤氏に関する展示は、地元ならではのもの。ユニークなのは、ルイス・フロイスが書いた『日欧文化比較』の記述の「日本人は犬を食べる」というところから、沓掛城の発掘調査で出土した食用とされる犬の骨が展示されていることでしょうか。人によってはショックな話かもしれません。

ちょっとわかりにくいかもしれないので、敷地内の配置がこちら

ということで、30分ほどで見られますが、なかなか充実の内容ですので、ぜひおでかけを。ただし、開室しているのは金曜、土曜の午前10時~午後4時だけですので、要注意です。入るのは無料ですが、駐車場はカラット内で認証(4時間無料)してもらわないと、けっこう高くつくのでご注意を。公共交通機関の場合は、名鉄本線前後駅から歩くと、25分もかかりますから、名鉄バスに乗って豊明中学校前停まで行くと、徒歩約8分ほどです。所在地は、愛知県豊明市二村台1丁目27となります。

タイトルとURLをコピーしました